旅に理由が必要だとしたら──その理由すら曖昧なまま、ふと歩き出してしまう瞬間が、私たちにはあるのかもしれません。
『ざつ旅 -That’s Journey-』は、そんな「なんとなく」を抱えて生きる者たちの背中を、そっと押してくれる作品です。SNSのアンケートで行き先を決め、地図も予定も曖昧なまま旅する主人公・鈴ヶ森ちか。その足取りのひとつが、宮城・松島へと向かいました。
この記事では、松島編に登場するロケ地やシーンのモデルとなった場所を紹介しつつ、『ざつ旅』らしい「歩き方」を探っていきます。観光名所を巡るだけでなく、そこに滲む余白や静けさを味わう旅。──それが、“ざつ旅的”聖地巡礼の魅力なのです。
『ざつ旅』松島回の概要|なぜ、松島だったのか
『ざつ旅 -That’s Journey-』松島編は、コミックス第1巻に収録された第2話「伊達じゃない伊達」で描かれます。SNSアンケートの結果、行き先が「宮城県・松島」に決まり、ちかは東京から東北新幹線を乗り継いでこの地を訪れることになります。
名勝として知られる松島は、日本三景のひとつ。風光明媚でありながら、どこか懐かしい空気を纏った場所。ちかの一人旅は、この静かな町を舞台に、観光船への乗船、海辺の散策、名物グルメの食べ歩きへと展開していきます。
しかし、松島編の魅力は“名所を巡った”ことではありません。人とすれ違い、すこしだけ関わり、でも深入りしすぎない──そんな「旅人の距離感」が、ごく自然に描かれている点にあります。行き先は他人任せでも、選んだ歩幅は自分だけのもの。松島は、ちかにとってそのリズムを思い出させてくれる場所だったのかもしれません。
実在のロケ地を辿る|松島の聖地巡礼スポット
『ざつ旅』松島編に登場した場所の多くは、実在の風景をベースに描かれています。細かなディテールや構図に至るまで、現地を知る者なら思わず「そこだ」と声に出したくなるような描写が続きます。ここでは、特に印象深いロケ地を4か所ご紹介します。
松島海岸駅周辺|旅の起点となる風景
ちかが松島に到着するシーンは、JR仙石線の松島海岸駅が舞台となっています。こぢんまりとした駅舎と観光案内所、海産物店や土産物屋が立ち並ぶ小道──そのどれもが、作品内で丁寧に描かれています。
「どこにでもあるようで、どこでもない」──そんな旅の起点にふさわしい、素朴で温かな雰囲気が印象的です。
五大堂|ちかが佇んだ場所
朱塗りの橋を渡って小島にある五大堂へ。ここは松島の象徴とも言える場所で、作品内でもちかが立ち止まり、海を見つめる場面が印象深く描かれます。
橋の隙間から海が見えるスリル感、波の音、潮風──視覚だけでなく五感を通して、ちかと同じ時間を追体験できる場所です。
松島湾遊覧船|“視点が変わる”体験
ちかが乗船した松島湾の遊覧船も、実在の観光船がモデルです。湾内に浮かぶ大小260余りの島々をめぐる航路は、陸から見る松島とはまったく異なる風景を見せてくれます。
「見る場所が変われば、感じ方も変わる」──そんなテーマを、遊覧船という移動する視点が自然と語りかけてきます。
瑞巌寺|静けさと時間の重なり
伊達政宗ゆかりの名刹・瑞巌寺は、ちかが歩くルートにも登場します。苔むした参道、静寂に包まれた境内、奥に佇む本堂。ここでは“観光”というよりも、“時間の層”の中に踏み込むような感覚が残ります。
人が少ない時間帯に訪れると、より一層、『ざつ旅』の空気感に近づけるかもしれません。
『ざつ旅』らしい視点で歩く|松島の絶景ポイント
『ざつ旅』の魅力のひとつに、「有名な観光地でさえも、どこか個人的な風景として描かれる」という点があります。ちかが見つめた景色の中には、観光パンフレットに載るような絶景も含まれていますが、それはあくまで“個人のまなざし”として描かれていました。
ここでは、そんな視点で切り取られた松島の「絶景」を、3つの場所から紹介します。
西行戻しの松公園|旅人のための展望台
松島湾を見下ろす高台に位置するこの公園は、春には桜、秋には紅葉が美しい名所として知られています。作中では、ちかがこの展望台から静かに海を眺める場面があり、ひとりでいることの贅沢さが淡く漂います。
「風景を独り占めする」ではなく、「風景とそっと並んで立つ」。この場所は、そんな姿勢を思い出させてくれる展望地です。
雄島|歩いて渡る、心の距離感
赤い渡月橋を渡って行く雄島は、陸からわずか200mほどの小さな島です。島内には洞窟群や祠が点在し、かつて修験道の修行地でもあったことから、俗世と隔てられたような時間が流れています。
ちかがこの島に渡ったとき、何かを“避ける”のではなく、“静かに受けとめる”ような表情をしていたのが印象的でした。橋を歩く数分間が、心の深呼吸のようにも思えます。
夕暮れの松島湾|言葉が沈む瞬間
遊覧船のラストシーンで描かれた、夕暮れ時の松島湾。陽が落ちていく時間、空がゆっくりと朱に染まっていく中で、ちかが多くを語らずただ立ち尽くしていた姿。
旅先で見る夕景は、どこか帰り道のような寂しさを帯びています。そしてそれは、「また来たい」と思える場所を、自分の中に静かに刻む時間でもあるのです。
モデル地巡りのヒント|アクセスと所要時間
『ざつ旅』のような“気ままな一人旅”を現実で楽しむには、少しの下調べが、逆に自由を広げてくれることもあります。松島を舞台とした聖地巡礼をスムーズに楽しむために、基本的な交通アクセスとモデルルートをご紹介します。
東京から松島へのアクセス
東京駅から松島へは、以下のルートが一般的です。
- 東北新幹線(約1時間30分)で仙台駅まで
- 仙台駅で仙石線に乗り換え、松島海岸駅へ(約40分)
全体で約2時間30分程度と、日帰り旅も可能な距離感です。ちかのように「朝の思いつきで、昼には知らない町にいる」──そんな旅が実現できるアクセスの良さも、松島の魅力のひとつです。
現地での移動手段
松島の主要スポットは徒歩圏内に集中しており、ちかのように歩いて巡ることが可能です。時間に余裕があれば、レンタサイクルや遊覧船も取り入れて、自分なりのペースで風景と対話する旅を楽しめます。
1日モデルコース例
- 10:30 松島海岸駅 到着
- 11:00 五大堂・瑞巌寺 散策
- 12:30 松島名物(牡蠣・笹かま等)を昼食に
- 13:30 遊覧船で湾内巡り
- 15:00 雄島へ徒歩で渡る
- 16:00 西行戻しの松公園で夕景を眺める
- 17:30 松島海岸駅より帰路へ
予定を立てすぎず、“気になった道に足を向ける”余白も残しておくことが、『ざつ旅』的な楽しみ方には欠かせません。
“ざつ旅的”旅の楽しみ方|ただ歩いて、ただ見る
『ざつ旅』が描いているのは、「観光地を制覇する旅」ではありません。鈴ヶ森ちかの旅に共通するのは、何かを「達成」するのではなく、ただその場に「いる」ことを大切にしている点です。
松島という名勝地においても、ちかは「定番スポットを全部巡る」わけではなく、自分の気分とペースに合わせて、風景とささやかに交差していきます。
現代の旅は、SNSの“映え”や口コミ評価に左右されがちですが、ちかのように「誰かの記録ではなく、自分の記憶に残る旅」を選ぶことも、ひとつの贅沢なのではないでしょうか。
ただ歩いて、ただ見る。それだけで充分な時間を、私たちはきっと持て余してなどいないのです。
まとめ|風景と物語が、静かに重なる場所へ
『ざつ旅』松島編に描かれた風景の数々は、観光ガイドのように目立つものではありませんでした。それでも、そこには旅人だけが感じ取ることのできる“静かな気配”が、確かに息づいていました。
聖地巡礼という言葉は、ともすれば「再現性」や「網羅」に向かいがちです。しかし『ざつ旅』という作品が教えてくれるのは、「同じ場所を歩いても、同じ旅にはならない」という当たり前の真実です。
松島の地を訪れ、ちかの足跡を辿ることで見えてくるのは、風景よりもむしろ、自分自身の“視点”の変化かもしれません。
季節や天気、時間帯、あるいはあなたの気持ち次第で、松島はまったく違う表情を見せてくれるでしょう。そしてそのとき──風景と物語が、そっと重なる瞬間が訪れるはずです。
各地の旅の詳細や登場スポットについては、非公式ファンサイト「Map of That’s Journey」にて、話数別に詳しく紹介されています。聖地巡礼や作品の舞台を訪れる際の参考としてご活用ください。



