『ウィッチウォッチ』という作品において、モモチ(百地たまも)の存在は、単なる“癒し系サブキャラ”ではありません。読者の心に静かに問いを投げかける彼女の在り方を、裏切り疑惑という視点から紐解きます。
「裏切り者」のラベルが貼られる前に
誰かを信じていたはずなのに、その行動に小さな違和感が生まれる。
それは作品を読む上で最も人間らしい“ざわめき”のひとつかもしれません。『ウィッチウォッチ』におけるモモチ――百地たまもというキャラクターは、まさにそのざわめきを静かに湛えています。
可愛らしく、面倒見がよく、そして圧倒的に「良い人」に見える彼女が、なぜ“裏切り者ではないか”と囁かれるようになったのか。
この問いを深く掘ることは、作品そのものが投げかける“信じることの危うさ”に向き合うことでもあります。
モモチとは誰か?白魔女としての素性とその能力
モモチこと百地たまもは、ニコの母・若月伊吹のもとで修行を積んだ白魔女です。彼女の登場は比較的遅いものの、その立ち居振る舞いには初登場時から“確かな経験”と“見えない傷”を思わせる気配が漂っていました。
彼女の使う魔法は「瞬間移動」。一見派手で便利そうな能力ですが、その本質は非常に繊細です。モモチの魔法は移動の質量と距離によって彼女の体重を削っていくという“命を削る魔法”なのです。これは、派手な技を持つキャラクターには珍しく、極めて静的で制限の多い能力でもあります。
体を削りながら、誰かを救う。派手な戦いの中にあっても、彼女はその行動のほとんどを“見守る”というかたちで行っています。言い換えれば、彼女の強さは“目立たない”のです。
モモチ裏切り疑惑の発端とは?物語に潜む伏線を読み解く
モモチに「裏切り者ではないか」という疑念が浮上しはじめたのは、黒和小麦の正体が黒魔女であることが明らかになった一件からでした。近しい関係にある人物が“敵”だったという展開は、登場人物たちのみならず、読者の中にも“信じていたものが崩れる感覚”を残します。
そこから派生して、“本当に信じられるのは誰なのか”という問いが作品内に立ち上がります。あまりに“良い人”で、どこか影を抱えたように見えるモモチも、その流れの中で疑念の対象となってしまったのです。
けれど、その行動を冷静に振り返ってみると、彼女は一度たりとも仲間を裏切るような言動をとっていないのです。むしろ、不器用なまでに“仲間を信じる”選択を繰り返してきました。
彼女は本当に裏切るのか?静かに描かれる“覚悟”の形
モモチの使う「瞬間移動魔法」は、距離や対象の大きさに応じて自身の体重が削れていくという、極めて苛酷な制約を伴います。つまり、誰かを救うためにその魔法を使うたびに、彼女自身は“生きる力”を少しずつ削っているのです。
作中では、彼女がそれをあえて他人に悟られないよう振る舞っている様子が繰り返し描かれます。軽やかに笑い、周囲を気遣い、どこか“戦いの場に深く踏み込まない”という態度すら見せる。そこにあるのは、逃げや冷淡さではなく、“覚悟を外に見せないという覚悟”なのではないでしょうか。
本当に自分が壊れてしまうリスクがあるからこそ、それを口にせず、日常を保とうとする。モモチは、「自分が傷つくこと」を恐れないのではなく、それを他人に知らせることで周囲の均衡が崩れることを恐れているように思えます。
その姿勢は、ともすれば“何を考えているかわからない”という印象を与えるかもしれません。けれどその沈黙の奥に、他者を守るために自分をすり減らすという、静かな自己犠牲の意志が見え隠れするのです。
読者が見落としがちな視点:裏切りではなく“信じぬく行為”
モモチを「裏切り者」と疑う視線の多くは、物語において彼女が時折“距離を置く”ように見える言動に起因しています。確かに、ニコたち主要メンバーと比べて、彼女は戦いの最前線に出ることが少なく、また自身の感情を語る場面も限られています。
ですが、視点を変えてみれば、それは「信頼していない」のではなく、「信頼しているからこそ、出過ぎない」態度だとも読めます。誰かに委ねること、仲間に任せることもまた、ひとつの勇気なのです。
また、モモチがあえて頻繁に登場しないこと――つまり“描かれなさ”そのものが、彼女の謎を深め、誤解を招く温床となっています。しかしそれは、彼女が「見守る」存在であることを象徴しているとも言えるでしょう。誰かを信じ、遠くから見つめ続ける行為は、裏切りとは正反対の場所にあります。
なぜ「沈黙する者」は疑われるのか?
物語の中で“沈黙するキャラクター”がしばしば「裏切り者」や「黒幕」として疑われるのは、私たち読者の心理にも根ざしています。語られないこと、表に出ない感情は、物語において“隠している”と感じられやすく、やがてそれは“不安”へと変わります。
モモチが多くを語らず、自ら前面に立とうとしないのも、彼女の性格と能力の特性からくる必然です。しかし、そうした“語られなさ”に対して、私たちが疑いの目を向けるのは、「信じたいからこそ、確証が欲しい」という、裏返しの信頼のかたちかもしれません。
つまり、モモチの“静かな存在感”は、信頼と疑念の両方を呼び込んでしまう二重の構造に立たされています。彼女の沈黙は、裏切りではなく“見守り”である。そのことに気づいたとき、読者は彼女を“安心させてくれる存在”として受け取るようになるはずです。
まとめ:「裏切り」とは誰の視点か──モモチの沈黙に耳をすます
“裏切り”という言葉は、しばしば物語に緊張をもたらします。けれど、それが真実であるかどうかは、結局のところ私たち読者がどの視点から物語を見ているかに左右されるのかもしれません。
モモチの沈黙、その優しさ、踏み込みすぎない距離感。
それは裏切りの予兆ではなく、彼女なりの“信じること”のかたち。誰かを守るために、自分の想いを語らない選択。
そんな風に読み解いたとき、彼女の姿はまったく違ったものに見えてくるはずです。
「信じたい。でも、信じることが怖い」。
そんな思いを抱えたすべての読者にとって、モモチの在り方は、小さな希望であり続けているように思います。



