『チ。―地球の運動について―』第二章に登場するバデーニは、物語の核を握る存在のひとり。
44歳の元副助祭でありながら、禁じられた宇宙論に踏み込み、教会から異端者として追放された過去を持ちます。
右目には眼帯、左目の視力もほぼ失われたその姿は、彼がどれほどの代償を払って知に近づこうとしたかを如実に物語っています。
なぜ彼は目を焼かれるような罰を受けたのか? 彼の頭脳はどこまでを見通していたのか? 本記事ではバデーニの年齢・過去・禁書の罪・地動説との関係を軸に、キャラクターの背景を深く掘り下げていきます。
この記事でわかること
- バデーニの年齢や見た目、負った傷とその意味
- 禁書を読んだ罪と、異端とされた理由
- 彼の地動説研究と、最期に至る運命
バデーニの基本情報――年齢・外見・傷の意味

『チ。―地球の運動について―』第二章に登場するバデーニは、物語の流れを大きく変える人物のひとりです。
44歳という年齢で登場する彼は、長年にわたって蓄えた膨大な知識と、その探求により被った傷跡を身に宿しています。
右目には眼帯、左目の視力もほとんど失っており、顔には深い傷痕。視覚をほぼ失った状態でもなお、真理を見ようとする姿勢が彼の在り方を物語っています。
44歳の元副助祭――歳月に刻まれた知識と孤独
バデーニは44歳。この年齢は、『チ。』の中で登場する登場人物の中でも年長に位置づけられます。
元は教会に仕える副助祭であり、神学・天文学を中心に膨大な文献を読み漁ってきた人物。
その飽くなき知識欲は教会の枠を超え、禁忌の書物にまで手を伸ばすこととなります。
結果として彼は異端者とされ、視力の喪失という苛烈な罰を受けながらも、知識を追い求め続けました。
右目の眼帯と顔の傷が物語るもの
バデーニの外見でもっとも目を引くのは、右目に巻かれた黒い眼帯。
これは単なる外傷ではなく、拷問によって蝋で目を焼かれた痕です。
教会にとって「地動説」は最大の異端思想。禁書に触れ、それを解釈しただけであっても、強烈な制裁が加えられました。
さらに顔に走る深い傷跡は、かつて友人とのあいだで起きた研究資料を巡る争いで、決闘の末に負ったもの。
この傷は、彼が単なる理論家ではなく、己の信じる「真理」を命がけで守ろうとした人物であったことを示しています。
身体の損傷と知識への代償
バデーニの身体に刻まれた傷は、単なる物理的なものではありません。
彼の瞳と顔は、権力と知識が真っ向からぶつかった結果であり、知を求める者がいかにして社会から排除されるかを象徴しています。
しかし彼は、視力を失ってもなお宇宙を思索し続ける姿勢を崩しませんでした。
その外見に宿る凄みは、彼が体験してきた“痛み”そのもの。
読者は、彼の顔を見た瞬間に、その人生の厚みを直感的に感じ取ることになるのです。
禁忌に触れた過去――バデーニの経歴と異端への転落

バデーニは元・副助祭という聖職者の肩書を持ちながら、教会に背を向けた異端者となった人物です。
彼の過去には、教義と真理のあいだで引き裂かれるような選択と、破滅へ向かう道のりがありました。
禁書を読んだというだけで、「知を求めた罪」として目を焼かれるほどの拷問を受けた男。
ここでは、彼がどのようにして教会を追われ、なぜ異端と断罪されるに至ったのか、その経緯をたどっていきます。
副助祭としての立場と異端思想の萌芽
バデーニは教会組織の中で、副助祭(サブディーコン)として任じられていました。
副助祭とは、司祭の下に付き礼拝や説教を補佐する職位で、一定の教義理解と信仰の純粋性が求められる立場です。
しかしバデーニは、そこで配られる神学書や説教原稿に疑問を持ちはじめます。
「なぜ神の創造物である宇宙は、神の意図と違う形で動いているのか?」という問いに取り憑かれた彼は、やがて地動説の可能性へと接近していくのです。
思想を理由に地方へ左遷、そして禁書の世界へ
教会上層部は、バデーニの姿勢を警戒し始めます。
彼が説教のなかで暗に天動説を批判し、宇宙の構造について独自の考えを述べていたことが問題視され、地方修道院への左遷が命じられます。
しかしこの左遷が、かえってバデーニの探求心に火をつける結果となりました。
閉ざされた小さな教区のなかで、彼は書庫に保管された“禁書”と呼ばれる文献群に手を伸ばしていきます。
そこには、キリスト教的世界観を覆す宇宙論・哲学・異端科学が詰まっていたのです。
禁書を読んだ罪――蝋で焼かれた右目
バデーニが読んでいた書物の存在が、ついに告発によって明るみに出ます。
教会は即座に異端審問を行い、彼を異端思想の保持者として告発。
裁判の過程で彼は一切の弁明を拒否し、「書物が真理に近い」と述べて反省の色を見せなかったため、最も重い拷問刑が下されました。
右目を蝋で焼くという残酷な処置は、信仰を捨てた者への見せしめとして記録されているものです。
それでもバデーニは、自らの探究心を恥じることなく、眼帯と失明という代償を引き換えに知識を守りました。
教会からの追放と、孤独な知識探求者としての再出発
審問ののち、バデーニは教会を追放され、全ての宗教的特権と職権を剥奪されます。
以降、彼は聖職者ではなくなり、民間に潜みながら宇宙論の研究を進める道を選びます。
右目を失い、名声も地位も奪われたバデーニは、それでも知を諦めなかった。
教義に従うより、観測と計算の先に真理があると信じていた彼は、まさにこの時代における“殉教者”といえる存在だったのです。
狂気と天才――バデーニの頭脳の本質と破滅の予兆

バデーニという人物を語るとき、避けて通れないのがその圧倒的な知性と、それに伴う孤独です。
彼は時代の誰よりも早く宇宙の構造に気づき、真理を突き詰める力を持っていました。
しかし、その頭脳はやがて彼自身を追い込み、仲間を遠ざけ、破滅へと導いていきます。
この章では、バデーニの知的特性と、それがもたらした人間関係の崩壊、そして決定的な事件について掘り下げていきます。
誰にも届かない天才――バデーニの知識の深さ
バデーニの最大の武器は、その知識量でした。
彼は天文学・神学・哲学・幾何学など、さまざまな分野に精通しており、その視野は当時の聖職者や学者を遥かに凌駕していました。
特に天体の動きについては独自に観測と記録を重ねており、神の意図よりも数学的秩序の中に真理を見出していました。
しかしこの知性は、周囲にとっては“理解不能な危険物”にも映っていたのです。
知性が生む孤独――傲慢と独善という副作用
バデーニは、自らの理論に絶対の自信を持っていました。
そのため、自分より理解の浅い者に対しては、しばしば冷笑や侮蔑を向けることがありました。
彼は協調性よりも論理と結果を重視するタイプであり、集団の中で浮いてしまう存在でもありました。
理解者がいないまま突き進むその姿は、天才としての輝きと同時に、破滅の兆しでもありました。
研究成果を奪われた怒り――決闘と顔の傷
彼の孤立を決定づけたのは、かつて信頼していた友人との裏切りでした。
バデーニが長年取り組んでいた観測データや理論を、その友人が盗み、別の形で発表しようとしたのです。
これを知ったバデーニは激昂し、決闘を申し込みました。
決闘の末、彼の顔に深い傷が残されます。この傷は、単なる肉体の痛みではなく、知を侮辱された者の怒りと絶望の刻印でもありました。
破滅への道――孤独の中で深化する知性
この事件以降、バデーニはますます孤立を深めていきます。
対話も協力も失い、残ったのは自分の理論と研究成果だけ。
しかしそれでも彼は筆を止めることなく、静かに、そして狂気のように宇宙の構造を解き明かす作業を続けていきます。
その知性の輝きは、他者と交わらぬからこそ増していったのかもしれません。
そしてその果てに待っていたのは、地動説の完成と、さらなる悲劇でした。
バデーニの最後――地動説の完成と異端としての最期

視力を失い、仲間を失い、それでもなお真理を求め続けた男――バデーニ。
彼がその命をかけて到達したのが、地動説の理論でした。
しかし、その発見は彼を救わなかった。
むしろ、真理に手を伸ばしたからこそ、彼は異端審問官ノヴァクに目をつけられ、最期の瞬間を迎えることになります。
オクジーとの出会い――若き修道士との共鳴
転機となったのは、若き修道士オクジーとの出会いでした。
オクジーは、バデーニの圧倒的な知識と論理性に心を奪われ、彼のもとで学ぶことを選びます。
これまで孤独に沈んでいたバデーニにとって、オクジーは唯一の理解者であり、信頼できる相棒でした。
二人は観測データの検証を重ね、教会が否定する宇宙構造の再構築に没頭していきます。
地動説の完成――神ではなく数式が示した宇宙
数々の計算と理論検証を経て、ついにバデーニたちは地球が太陽の周囲を回っているというモデルに辿り着きます。
これは、神の意志による静的な天動説では説明できない天体の動きを、一つの数学的秩序として捉え直す試みでした。
この発見は、教会の世界観を根底から覆す“思想の核爆弾”ともいえるものでした。
そして、彼らはこの理論を世に出すべく、密かに準備を進めていきます。
ノヴァクの介入――異端審問官の断罪
しかし、彼らの研究が世に出る前に、それを嗅ぎつけたのが異端審問官ノヴァクでした。
ノヴァクは、教会の秩序を守るために異端者を容赦なく断罪する存在。
彼は、バデーニの過去の拷問記録を再調査し、オクジーとの接触を通じて新たな異端思想の拡散を警戒していました。
そしてついに、バデーニは再び捕らえられ、審問の場に立たされます。
最後まで折れなかった意志――そして処刑へ
審問の場でも、バデーニは一歩も引くことはありませんでした。
彼は、神を否定するのではなく、「神が創った宇宙こそが合理的に説明されるはずだ」と語ります。
しかし、その理屈は教会には届かず、彼は異端者として死刑を宣告されます。
最後の瞬間、彼はオクジーに向かって「知識は人を救う。例え私を焼き殺しても、知は残る」という言葉を遺しました。
こうしてバデーニは処刑され、命を絶たれます。
だが、彼が命を懸けて伝えようとした理論は、確かにオクジーに受け継がれていくことになるのです。
バデーニの頭脳と過去から見る『チ。』のテーマとは

『チ。―地球の運動について―』という作品は、単なる歴史フィクションではありません。
そこに描かれているのは、「知識を求めることがいかに過酷で、それでもなぜ追い求める価値があるのか」という、時代と人間の本質に迫る問いです。
バデーニという人物は、その問いに対して肉体と人生を代償に差し出したキャラクターでした。
彼を通して浮かび上がる『チ。』の核心を、ここで整理していきます。
「トンスラ」に込められた修道士としての象徴性
バデーニの頭部には、カトリック修道士特有の髪型トンスラが施されています。
これは頭頂部を丸く剃り上げ、頭の周囲だけに髪を残すスタイルで、神への献身・世俗の拒絶を意味します。
この髪型は、彼が本来なら神に仕える聖職者であったことを明確に示していると同時に、彼が知識を神と同等の価値として捉えていたことの象徴でもあります。
世俗を捨てるためのトンスラが、いつしか教会から捨てられる皮肉。それもまた『チ。』の残酷さを支える要素です。
貧者の頭皮に刻まれた刺青――知識の保存と継承
最も異様でありながら印象的な描写が、バデーニが貧民の頭皮に知識を刺青で刻んだという場面です。
これは、紙も墨も残らぬ時代に、情報を物理的に“人間”に記録するという極めてラディカルな方法でした。
バデーニにとって知識とは、理解されることよりもまず「生き残ること」が優先される対象だったのです。
そのために選んだ手段は、倫理や常識を超えても正当化されうるものでした。
この手法は、彼が「知識を保存すること」そのものに宗教的な意味を見出していた証ともいえます。
知識の追求は、罪なのか?
『チ。』全体を通じて繰り返されるのが、知識の探求者が「罪人」として裁かれていくという構造です。
バデーニもまた、教会法や社会通念からすれば確かに“逸脱者”でした。
しかしその逸脱は、世界の枠組みを広げるために不可避な行為でもありました。
彼が異端として焼かれる一方で、その地動説が次の世代へと受け継がれ、最終的には世界を変えていく礎となったことが、その矛盾を強烈に際立たせます。
『チ。』が描く「知のバトン」の本質
バデーニの死は、単なるキャラの退場ではありません。
彼が命をかけて守った理論は、オクジー、そしてさらにその先の世代へとバトンのように渡されていくのです。
この連鎖は、『チ。』という作品の本質でもあります。
真理は一代で完結しない。ある者が命を落としても、知識は人を超えて生き続ける――。
それが、この物語に通底する最大のメッセージであり、バデーニという存在が象徴していたものなのです。
この記事のまとめ
- バデーニは44歳の元副助祭。教会で高位の立場にあった。
- 禁書に触れたことで右目を蝋で焼かれる拷問を受け、異端者として追放される。
- 視力と地位を失っても地動説の理論を構築し続けた。
- 若き修道士オクジーと出会い、研究を加速させた。
- 異端審問官ノヴァクにより再び捕まり、処刑される。
- 頭の「トンスラ」や刺青の描写から、知識の継承と宗教の構造が浮かび上がる。
- バデーニの人生は『チ。』が描く「知の価値」と「その代償」を象徴する軸である。
| 名前 | バデーニ |
| 登場章 | 第二章(『チ。―地球の運動について―』) |
| 年齢 | 44歳 |
| 職業 | 元・副助祭 |
| 罪状 | 禁書の所持・地動説の研究による異端視 |
| 処罰 | 右目を蝋で焼かれた後、処刑 |
| 象徴的描写 | トンスラ髪型、顔の傷、貧民の頭に刺青 |



